『蒼天航路』的荀攸(後編)

○名誉挽回

が曹操軍に加わってからずっと大きな山のなかったどころかかなり軍師としての株が落ち込んでた荀攸。まあ、ほかの軍師たちも落ち込みあるけど、彼は特に長いです。で、赤壁。いきなりやられてしまった曹操軍。主君不在の中、ひとりで軍を支えてます。曹操が死んだと聞いても、泣きながらがんばってます。鬼気迫る感じです。しかも呉のニューフェイス吾粲がべたほめしてます、彼の陣形を。
で、12日目にやってきた面々。ひとりでため込んでんじゃないよってな感じで、彼のこと暖かく見守ってましたね〜。が、殿が帰ってきてからは安心して気が抜けたのか、ちょっと鈍ってます。

○実は・・・

魚にあたったのはおいといて、赤壁あたりからだんだんと心身共にかなり強靱であることが判明。この荀攸なら牢にぶち込まれても平気そう。
どうでもいいけど、赤壁で負った矢傷は大丈夫だったのだろうか。その二百六十二までは確実に跡があるのに、平気で歩いたりしてたんですけど。しかも、12日くらいで治るのかなあ。ひょっとしたら我慢してるだけかもしれないけど。

○「英智を愚で包む そのつつしみ深さ 何人も及ばず」(その三百十八、台詞:劉曄)

満を持して登場、全国100万人(そんなにいないよ)の荀攸ファン待望の評です。
そういうことだったのかー・・・。正史の「外は愚、内は智」という記述を知っているだけに、今まで(見せ場もあったけど)さんざんお間抜けな振る舞いを見てきても「まだ何かあるはず!」という希望をかすかに抱いて読んでいたのですが、やはり来ましたね。自然に英知を表さずに振る舞うことができる、蒼天荀攸はそういう人なんですね。天然に慎ましいから、確かに「何人も及ばず」 だよね。
荀攸は困惑して、こう答えます。「私は古い通念からなかなか抜け出せんであがいておるまことの愚物ぞ」
その二百九十五で「この国の通念というやつは!」と言った曹操の言葉がずっと頭に残ってます。次の回での「私にはまだまだ学ばねばならん事が山ほどある」もやはりこのことでしょう。曹操に一喝される前は華ダのこと呼び捨てにしてたのに、その後は「先生」つけてるし。
「まことの愚物」は卑下しすぎだと思うけど。通念から抜け出してる曹操の方が珍しいのであって。抜け出そうとすらしていない愚物の方がはるかに多いことに彼は気付いていないのだろうか、なまじ人並み外れた智を持っているだけに。その辺の思考がまた慎み深いのだけど。性格が我褒めの賈とは対照的なのが可笑しい。 で・・・劉曄、無視してます。そりゃあ、この時みんな曹操から没を食らったらしい進言書持って帰ってるのに、荀攸は手ぶらだもんね。没なし?

○最期

扉絵で曹操が階下の荀攸に剣を渡してます。そして、陣中で(たぶん)生涯を終えた荀攸。横たわるその手に握られているのは例の剣。
1話にも満たない・・・。3話くらいやってくれてもと思ったんですが、それ以外はわりと満足してます。あっさりと、というのが地味な彼らしいと言えなくもないし。
そして、「荀攸伝」を手垢がつくまで読んだ人なら知った言葉もちらほらと。「温・良・恭・謙・譲」とか「美点をひけらかさず」とか。予備知識無しだとこっ恥ずかしいかもしれん弔辞(いや、弔辞だからいいのか)だけど、正史の曹丕が荀攸好き(まあ、ニ荀を敵にまわしたくないっつー可能性はあるけど)ということを踏まえて読むと、ちょっといいよね。
彼に興味がない場合は、これで株が上昇状態で逝ったと思えるかは微妙。初登場何晏とかドレッド青年(魏諷だったね)の強インパクトに流されそうで。でも荀攸の亡骸を見てる曹操の形相なんかは郭嘉のときを思い出すし、葬儀のときに悲痛そうにうつむく賈と歯をくいしばってる夏侯惇と自然に泣いてる許は、それぞれの性格が出てていい味だしてます。特に賈は自分と同レベルの話ができる数少ない男が逝っちゃっただけにショック大きかったんだろうな〜。
すごい君主の側にあり、死ぬまで軍中に身を置いた荀攸、きっと満足のいく半生だった・・・いや、まだまだ生き足りないかも。

○総括

やはり「曹操幕下随一のしぶとさ」(単行本23巻の人物紹介より)を体現した軍師と言えましょう。正史に描かれるところの曹操にとっては慎ましい性格は好ましいことのように思えるけど、蒼天曹操にとってはそんなこと関係ないように思えます。むしろ何があっても、例えば殿に怒られても食らいついてくるしぶとさというか前に曹操も言ってた「やわらかな執念深さ」、見かけによらず叩いても落としても壊れないような強靱さを買ってるんじゃないかなあ。だから、曹操も彼ばっかり怒ってるのかもしれません。
なんか小物っぽく見られることがあるのは、賈参入から赤壁前までの小物っぷりとよく曹操に怒られるところからかもしれません。そのニ百九十五「まったくこの国の通念というやつは!」のところで一喝されてかっこ悪くこけるシーンみたいに、流し読みしただけだと単なる間抜けなおっさんと取られかねないシーンも多いし。でも、総合的に見るとほかの主要軍師に比べて劣るようには見えません。
赤壁はかっこ良かったけど、ワタシ的ヤマ場は、「英智を愚で包む」ところです。曹操に怒られて慌てていてもちゃんと食らいついてる、やることはやってること、この台詞で一気にもやもやが取れましたから。
まあ、なんだかんだ言って大方満足してしまうのは、ほかの三国志もので彼がクローズアップされることがあんまりない気がするからかも(汗)

かっこ悪くたっていい。それが彼のかっこ良さだから。

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